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何を思ったか、まとまって取れた休み。パスポートの有効期限は残り6カ月を切っていた。それでも海外に行きたいと調べたところ、タイであれば行けるということを突き止め、行き当たりばったりの海外旅行をした経験があります。

タイでの思い出といえば、特に「コレ」と呼べるものはなく、強いて言えば「アジアの熱」を感じられたことです。

見上げる空には、ジリジリとあらゆるものを焼き尽くすかのような太陽。吸う息すら熱気を帯びている空気。未舗装の道路には、どうやったらそんなに乗るのというくらい人を乗せたトゥクトゥクが行きかいます。けたたましく鳴るクラクションが「道をゆずれ」と言っているかのように。タイには確かに「アジアの熱気」がありました。

そんなタイでも食の思い出は鮮明です。それがカオマンガイ。暑さを避けて、逃げ込んだ地元の飲食店。わけもわからず頼んだシンハービールとカオマンガイ。タイ風の独特な醤油。パクチーの香り。サラサラとした口当たりのタイ米たるや、「ザ・アジア」でした。

日本に戻り、また普段の仕事にうずもれていくと、アジアで補給した「熱」が失われていくのに気付きます。気を使い、おべっかを使い、心が擦り切れてくるともはや熱は失われているのではないかと思う始末。そんなとき、心に火をともすべく食べたいもの。それが、「あのカオマンガイ」なのです。

もっとも、「カオマンガイ」とここまで連呼しましたが、多くの人にしてみれば「?」なのではないでしょうか。

カオマンガイは、タイ風の混ぜご飯といったところです。チキンスープを使って炊いたごはんの上に、蒸した鶏肉を無造作に置きます。そして、お店によっては千切りにしたきゅうり、そしてパクチーを載せます。その上から、タイ風の醤油、もしくはスイートチリソースをかけて、ガサガサと混ぜた上で食べるものです。タイではポピュラーな料理で、日本でいうところの牛丼感覚で、道端の食堂で供されています。

しかし、これを日本で食べようとすると、どうにも困ることが多い。タイ料理店に行くと、なんだかちょっと味のバランスが悪かったりします。一方、クックパッドなどでもレシピがあるため、自ら作ってみても、そもそも日本のもっちりした米では、「コレジャナイ」感がでてしまいます。

そんな「カオマンガイ難民」だった私が、いろいろタイ料理店をまわり、行き着いたのが「大阪カオマンガイカフェ」でした。

店名からして、直球ど真ん中。カオマンガイを食べるためのお店なのは誰が見ても明らかです。お店はと言えば、オタロードから一本なんばCITY寄りの筋沿いにあります。サブカルの聖地にバンコクあたりの店舗がテレポートしてきたかのような店構えはいかにも異質で、通り沿いに歩いていればすぐに見つかります。

基本的にカオマンガイがお目当てのため、利用はお昼をおすすめします。お昼の場合、一階のレジでさきにオーダーをしてから席につきます。カオマンガイは、蒸した鶏肉が載ったタイプ。揚げた鶏肉が載ったタイプ。これらのハーフアンドハーフからチョイスができます。また、それだけでは足りないという人には、プラス300円で、フォーやトムヤムヌードルなどを追加できるのもうれしいポイントです。

腹を減らしていた私は、ハーフアンドハーフにトムヤムヌードルを追加。もちろん忘れてはいけない「シンハービール」というタイ産のビールもオーダーします。ビールは金属製のコップとともに、先に手渡されます。この、屋台感が何ともいえずアジアっぽいのです。

鼻歌交じりで、2階にあがり、手ごろな席を見つけて腰かけます。トクトクとビールを注ぎ、グイっと一気にあおります。店内にはいたるところにベタベタとシールが張られ、不統一感満載の家具が配置されていて、「これもまたアジアやねんなあ」と妙に納得します。

お客さんはどちらかと言えば女性比率が高め。よもやま話に花を咲かせつつ、行儀よく料理を食べています。しかし、こちらはそんなこと一向にお構いなし。熱を注入するためにやってきたのですから。

2杯めのビールをグビグビやっているところに、大きなトレーに載せられた、カオマンガイとトムヤムヌードル。なんだかよくわからないデザートとアイスコーヒーがやってきます。「来たでー!」と心の中で叫び、ニヤニヤする男。まわりの女性陣からすれば完全に異質です。

備え付けのタイ風ソースとスイートチリソースを全量かけ、グシャグシャとごはんと混ぜ合わせます。「焦るな焦るな。よく混ぜろ」と、自分に言い聞かせつつ。ころ合いを見て、一気呵成にかけ込みます。タイ米のすっきりしたかみ心地。でもしっかり一粒一粒まで浸透したチキンのお出し。やわらかい蒸し撮りにはソースが辛み、時折パクチーのさわやかな香りが鼻を突きぬけます。脳内では、あのタイの日差しが降り注いでいます。途中でトムヤムヌードルを流し込み、グビグビとビールを飲むと、体の芯に火がともり、その炎が徐々に大きくなっていくことに気がつきます。「熱や、熱が体に入ってきたで」うれしくなります。あれだけ擦り切れて、疲弊していた心が強くなっていくようです。さながらスーパーサイヤ人になった孫悟空か、オームによって復活したナウシカのような状態でしょうか。今なら軌跡すら起こせそうだとさえ感じます。

お皿が空っぽになるころには、背筋が伸びて、いつもより遠くに視線を投げかける自分に気付きます。

熱が注入された後は、アイスコーヒーでペースを整えた後に、なんだかよくわからないデザートに手をのばします。こちらは、どうやらタピオカミルクに、意表をつくスイートコーンが入っています。「えらい組み合わせやなあ」と思いましたが、食べてみると納まりがいい。タピオカのプリプリした触感と、コーンの粒々した触感のコントラスト。味の面ではミルクの優しい甘さと、コーンのやや強い甘みのコントラスト。これらが絡み合い、楽しいデザートになっています。スタートからゴールまで、一切気を抜くことなく「アジア」が満載であること。そして何より失われた熱を注入できるお店が、日本橋界隈にあることはちょっとうれしいものがあります。

満足して、「さて帰ろうかなあ」と考えているところ、トレーを持った店員さんが横を通り過ぎます。そのトレーにはカオマンガイと別皿に盛られた山盛りのパクチーが。「しまった、別皿でパクチーついかできるんか!」と、この日唯一のミステイクを後悔し、近いうちに再来店しようと心に決めた次第でした。

店名:大阪カオマンガイカフェ

住所:大阪市浪速区難波中2-4-14

電話:06-6636-5177

定休日:水曜日

営業時間:ランチ11時30分~15時 ディナー17時~22時30分