16 ENTRY

日本橋の人波をかき分けて、オタロードから1本筋を入る。通りに面したビルの1階に絵本カフェ「holoholo」が見えてきます。

絵本カフェ…。どうにも興味をそそる枕詞です。おもむろにガラス扉を開けると、チリンチリンと来店を知らせるベルが鳴る。

こじんまりした店内。静かなお客さん。たくさんの絵本

店内に目をやると、木製の小さなテーブルが8セット奥に連なるように並び、きっちり16人が入るだけ。テーブルが連なった部分の前には、細い通路を隔てて、マスターとその奥様とおぼしき女性スタッフがパタパタと飲み物や食事を作るカウンター型のキッチンが設けられています。文字通り、こじんまりとしたものです。

その店内で、とにもかくにも目を引くのが所狭しと設けられた本棚。そして、そこにズラリと並ぶ絵本たちです。絵本は、ア行、カ行と50音順にきちんと整理整頓され、並んでいました。

驚いたことに、お店には若いカップルもいれば、小学生くらいの子供を連れた親子、おひとりさまの女性など実にバラエティに富んでいた。子供連れがメインだと思っていたから面食らってしまった。

驚いたのにはもう一つ理由があります。店内がとても静かだったこと。ガヤガヤとした雰囲気はなく、聞こえてくるのは、マスターがコーヒー豆を挽く音だったり、アルミホイルを丸める音だったり。そして、意図的にトーンを落としたお客さんのしゃべる声です。一番大きな音と言えば、店内にかかるジャズであろうBGMという風情です。

それもそのはず、皆が行儀よく、思い思いに絵本を読んでいるから。

ある女性客は、懐かしそうに、愛おしそうに、丁寧にページをめくっている。また、別のカップルは一冊の本を一緒にめくりながら、時折目を見つめあわせて「懐かしいね」と小声で笑いあっている。子供はじっくりと一冊の本に目を通している。オタロード界隈の気ぜわしい雰囲気と比べると、2〜3段階ゆったりとした時間が流れている。

 

絵本カフェにぴったりなメニューたち

「おひとり様ですか?」と女性スタッフが声を掛けてくれた。思わず、小声で「はい」と答える自分がいました。

勧められた席に腰掛け、音を立てないように上着を脱ぎ、荷物とともに向かいの席に置く。絵本選びをしたい気持ちを抑えて、メニューに目を通す。

「からすのパンやさんの珈琲 480円」「大きな大きな豆乳パンケーキ 700円」「お日様ピラフ 780円」などなど。きっと、絵本をめくりながら飲んだり、食べたりしたら幸せになれるだろうことが容易に想像できるメニューが並んでいた。

「今日は絵本を読みたいな…」そう思ったので、ひとまず「からすのパンやさんの珈琲」だけを注文することにした。なによりも、昔読んだ絵本のタイトルが冠せられていたことが気に入ったためでした。

 

気がつくと、あっという間に時間が過ぎている

注文を終え、すぐさま席を立ち、本棚に目をやった。

「すてきな三にんぐみ」「ねずみくんのチョッキ」「魔女の宅急便」などなど、小学校の図書館、あるいは小児科の待合室で、きっと誰もが一度は目にしたことのある懐かしい絵本や童話が並んでいる。本棚を眺めているだけで、どれを手に取ろうか迷ってしまうほどだ。「あぁ、これ昔読んだなぁ」と思わず独りごちてしまう。

迷ってしまってキリがないので、ひとまず「すてきな三にんぐみ」を手にとって席に戻り、読み進める。表紙はなんとなくおぼえていたが、実際に読んでみると「こんな展開だったかぁ」と、話の内容を忘れていることに気付かされる。そして同時に、絵本は世代を飛び越えて、ある種の教訓めいたものを含んだ読み物として人の心に触れてくるものだと気付かされるものです。

店内にある絵本や童話は実に多様。すでに触れたような、誰もが知っている懐かしい絵本や童話もあれば、ハードカバーのグリム童話だったり、ハリーポッターシリーズも一揃いある。ふとしたタイミングで訪れ、そのときの気分にあわせて絵本や童話をチョイスして読むことができるでしょう。

あれこれと絵本を読んでいると、コーヒーがやってきた。小さなカメの形をしたクッキーが添えられているのがうれしい。「からすのパンやさん珈琲」は、このお店のオリジナルブレンドということでした。しっかりとした苦味とコク。やや甘さを感じるような香りから、おそらくブラジルあたりの豆をベースにしているのではないかと思われた。コクのあるコーヒーは、ちびちびとすすりながら、絵本をめくるような長居にはうってつけの味だと思われた。時間が立ってしまい、コーヒーの温度が下がってしまっても、しっかりと香りがあるのはうれしかった。絵本とコーヒーで、気がつけば1時間も居たことに、我ながら驚いた。

 

こんな人におすすめのお店

holoholoは、間違いなく良い店です。ただ、注意が必要な点があって、決して親子だけをターゲットにしているお店ではないということ。むしろ、大人がちょっとした懐かしさを求めて立ち寄るのに適したお店でしょう。仕事で心が擦り切れたり、忙しい日常に休憩を求めたり、そんなタイミングで訪れたいと感じる。ひょっとしたら、気になる女性をデートに誘うと株が上がるお店かもしれない。反対に、子供に絵本を読み聞かせようと思って訪れるのには適していないと思われる。むしろ、ちゃんと静かに本を読むという「約束」ができる小学生くらいになった子供を連れて、それぞれが好きな絵本を読むという使い方にはうってつけでしょう。このお店を訪れることで、本好きになるきっかけが生まれるかもしれない。

実際、トイレの壁や店舗の入口には「いろいろな世代の人に楽しんで欲しい」「騒いだり、大きな声でのおしゃべりはご遠慮ください」「お子様の管理は保護者の方の責任です」といったことが注意書きとして掲示されている。こうしたものは、ややもすると「うっとおしい」と思われがちです。しかし、このお店は、お客さんも十分にお店のことを理解して、皆が楽しめるように協力している空気があるため、決して嫌な感じはしません。むしろ、張り紙を見て「うん、うん。その通り」と思ってしまいます。

会計を済ませる際に、探しても見つからなかった絵本について訊ねてみました。しかし、タイトルが解らず「小さな家が主人公で、周りの環境がどんどん変わっていくような内容の絵本だったと思うのですが、ありますか?」と聞いたところ、「あぁ、『小さなおうち』という絵本ですね。申し訳ないです、置いていないんですよ」と、とても残念そうな顔をして即答してくれた。“蔵書”になかったことは残念だったけれども、ちょっと内容を伝えただけで、瞬時にタイトルと本の有無を答えてくれる“司書”っぷりに、感心しつつお店を後にしました。今度はもっと時間を取れるときに、ちゃんとコーヒーをおかわりして、サンドイッチかパンケーキも頼んで、じっくりと絵本を楽しみたいと思った。

もし、いわゆる日本橋らしい雰囲気とは少し違った楽しみ方をしたくなったら、足を運んではどうでしょうか?

 

店舗情報

絵本カフェ holoholo

住所:〒556−0011 大阪市浪速区難波中2−7−25 1階

電話:06−4396−8778

ホームページ http://ehon.cafe-holo-holo.com/

営業時間: 平日11時〜20時(ラストオーダー19時30分)

土日祝日 11時〜19時(ラストオーダー18時30分)

定休日:火曜日、第三水曜日定休(祝日の場合翌日)

南海なんば駅の南口からなんさん通りを日本橋方面に進み、難波中2交差点を南に入ります。3筋目を左折し直進。突き当りの角に位置する。