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日本橋商店会。この言葉を聞いて、「え?商店街??オタロードのこと?」と思う人もいるのではないでしょうか。日本橋商店会は、オタロードを南の方に進んだところにあらわれる、小さな商店が軒を連ねる一角です。実は、戦後から続く商店街で、電気店、アンティーク雑貨のお店など多様な商店が集まっています。その入口には、日本橋らしいアニメキャラクターが描かれた看板が据え付けられています。

もっとも、すべてのお店がオープンしているというわけではなく、空き店舗も結構あって、若干シャッター街のようになっているところが寂しさを感じます。

やや躊躇しますが、その商店会に足を踏み入れると個性的な店舗に巡り会えます。今回ご紹介するのは、その中にある「COFFEE553」というコーヒーショップです。

 

細い路地に突如としてあらわれるコーヒーショップ

 

細い路地を奥に進んでいくと、突然塩ビ製の透明なカーテンがかかったコーヒーショップがあらわれます。と、書きましたがコーヒーショップと判断するために、二、三回ほど中を覗き込んでしまいました。「一応、外の看板にコーヒーって書いてあるから間違いない」と思っていたのですが、自信が湧いてきません。というのも、お店の中は何とも言い難い雰囲気が溢れているからです。アメリカン・ヴィンテージな内装。そこに置かれた統一感のない雑貨たち。そしてところ狭しと並べられた数々の本。例えば、かわぐちかいじのマンガ「沈黙の艦隊」や、太平洋戦争に関連した文庫本。よく見るとウルトラマンの怪獣大図鑑も並んでいます。本も統一感がありません。

しかも、店内は極めて狭く、概ね3坪ほどでしょうか。カウンターの前に小さなベンチと、一人がけの椅子が2脚並んでいるばかり。机はサイドテーブルのようなものがひとつあるだけです。

ちらちら中を見ていると、ベンチに座っていたおっちゃんが立ち上がりました。

見たところ40代。ベージュのベルベットのジャケットを羽織り、グレーのマフラーを首にぐるぐると巻いています。

「あ、店主の方かな?」と一瞬思いましたが、よく見ると手には紙カップに入ったコーヒーが。お客さんだと気づきました。「お客さんだよー」と外の通りに向かって声を上げます。すると、そそくさともう一人のおっちゃんがやって来ました。今度は、グレーのツイードのジャケットにジップアップのハイネックニットを着たダンディなお方。「ああ、この人が店主か」とわかりました。

それにしても、お客さんに店に戻るように言われる店主って。。。なんだか不思議な店に来たなという思いが強くなります。

 

有無を言わさずホットコーヒーを頼ませる「圧」

店に戻った店主は、サッとカウンターの内側に入り「ホットコーヒーでいい?」と問われます。カレーを食べた直後だったので、アイスコーヒーの方がよかったのですが、すでに店主はドリップコーヒーの準備をすすめています。「これでアイスコーヒーとは言えないよな」と思い、「はい。ホットコーヒーで」と言いました。知らず知らずのうちに、このお店のペースにズルズル巻き込まれています。ただ、なんとものんびりした空気が心地よく、「まあええか」と思えてしまいます。

「座りなさいよ」と先程のベルベットおっちゃんに席をすすめられます。「お客に椅子をすすめられるって」とは思いましたが、小さな丸いすに腰をおろします。

ふと壁に目をやるとコーヒーチケットが貼られています。それぞれが何枚か使用されており、他のお店の店名が書かれていました。そのことから、きっとこのお店が商店会にとっての憩いの場所だと気が付きました。

 

コーヒーと。『漫才』と。

できましたよ。どうぞ

紙カップに入れられたコーヒーが手渡されました。そしてコースターの上にカップを置きます。と言っても、コースターには「I.W.ハーパー」と書かれています。その上、テーブルにすでに何枚か置かれていたものから、自分で引っ張り出してきて使いました。

「どっこいせ」カウンターから出てきた店主は、コーヒーを手にベンチにどっかりと腰をおろしました。その隣にはベルベットおっちゃんがいます。おもむろにタバコを取り出し、スパスパ吸い始めました。

「ふらっと来はったん?うち、全然宣伝とかしてないし」と店主。「はい。ちょうどお昼にカレーを食べて、コーヒーが飲みたかったので(ほんとはアイスコーヒーがよかったけど)」と私。「そうかー。いやー、私もお昼食べすぎてさ。◯◯ってお店に行ったんやけど、600円でおかずと、もう一品ついて、お味噌汁がついて、ご飯山盛りでやっすいねん。600円やで」と店主。短いセンテンスの間で、600円が2回入るとは。値段が重要だということがよくわかります。

「そこの店主面白いよね」とベルベットおっちゃん。

「そうそう。ほんま新喜劇やで。屋台引っ張ってた時代があんねんけど、その店主。冬に店番してたときに、ヒーターの火がセーターに燃え移ってカチカチ山みたいになったことがある言うてたわ」と言います。

「カチカチ山って」と思わず吹き出してしまいます。「行ってみ。そのお店。ほんまにネタやで。めんどくさいメニューは『おいしないからやめとき〜』って言ってくるし」と店主。ネタでお店をすすめられるとは。一応私一見さんなんですけど。と思ったものの、それは心の中に留めておきました。

 

脇道にそれまくりですが、コーヒーはうまい!

店主とベルベットおっちゃんの掛け合いは、放っておくと延々とつづきます。お二方ともダンディな見た目とは裏腹にお話好き。

うっかりすると、本題のコーヒーを味わうことを忘れてしまいます。冷めてはいけないと、コーヒーをすすりました。するとどうでしょう。漫才みたいなやりとりに気を取られていましたが、コーヒーはしっかりうまい。濃くてコクのかたまりみたいなガッチリテイストです。塩ビのカーテンで覆われているとは言え、ほぼオープンスタイルのお店。寒空の下では、こうしたコク深いコーヒーは気分がシャッキリします。もっとも、漫才っぽいやり取りに割って入るのは悪いなと思ったので、おいしいという感想は胸に留めておくことにしました。

 

最後に、実はテイクアウトメインのお店であることに気づく

このままでは漫才に延々と付き合うことになりそうだと思い、「ごちそうさまでした」と言って会計をお願いしました。お値段300円。そこらへんのチェーン店に行くことを考えれば、これだけしっかりしたコーヒーと漫才を見られるならば安いものです。

「紙カップで出されるお店なんですね」と聞くと、「うん。基本的にはテイクアウトのお店やから」と店主。「だって、そうしいひんと延々しゃべってまうやろ。長居されるとずーっとしゃべってまうからなあ。ま、楽しいからええんやけど」という。なるほど、おしゃべりの自覚はあるようです。

何から何まで不思議なお店ですが、愉快なお店です。

 

店舗情報

COFFEE553

住所:大阪市浪速区日本橋4−17

※営業時間などの詳細はお店にお問い合わせください