22 ENTRY

日本橋界隈で最近よく目にするのが、「牛かつ」や「とんかつ」の文字。あるいは、ステーキといった肉をメインにする飲食店ではないでしょうか。

多くはタケル系列の飲食店で、なんだかチェーン店が幅を利かせているのはややさびしいものがあったりします。そんな光景を尻目に、昔ながらのとんかつを出す店を求めて堺筋沿いを南下していきます。

まちがいなく迷うことはありません。看板がデカすぎます。

堺筋沿いを日本橋4丁目交差点まで来たら、喧騒を避けるようにauショップのある角から松屋町筋方面にワンブロック入ります。するともう右手に件のお店が見えてきます。お店の前には、とんかつ丼と大きく描かれた真っ赤な巨大看板が待ち構えています。あまりの大きさに、歩いている人がぶつからないだろうか?と心配になるほどです。

このお店の名前は、「こけし」と言います。かわいらしい名前とは正反対の、けっこうワイルドな店構え。お店が面する通りは車どおりも少ないため、真っ赤な看板と静かな通りのコントラストがなんだかすこし面白い風情があります。

訪問したのはお昼の真っ只中12時半。普段であれば、お店の外に入店待ちの人が数人いてもおかしくないのですが、そのときはラッキーでした。待ちはなく、スッとお店に入れました。

 

チャーミングなお姉さんに案内されて

 

お店の中に足を踏み入れると、手前にはコの字型のカウンター。そして壁に沿うようにLの字型のカウンター席が並んでいます。このお店、テーブル席はありません。

「こちらのお席にどうぞ」とおそらく二十歳前後の女性の店員さんが、満面の笑みで空いているカウンター席へ案内してくれた。弾むような声とはこういうことを言うのだろうな、という明るさで、なんだかこちらまで元気になってくるから心地よい。すぐさまお茶が出された。タイミングも良い。

店内はかなり混み合っていて、持っていたかばんは隣の席に置くことができず、地べたに置くことになりました。もっとも、こうしたとんかつを出す店で、人がぎっしり入っているということは期待できるということ。地べたにかばんを置くことなんて、それを思えばどうってことはありません。

「ご注文は何にいたしましょうか?」と、相変わらず笑顔が絶えない。気持ちよく、「ダブルエッグ」(840円)と注文しました。

 

ちょっと風変わりなメニュー構成。予習が必要かもしれません

 

「ダブルエッグって何やねん?」という声が聞こえてきそうですが、このお店一風変わったメニュー構成になっています。

まず、大きく分けて「とんかつ丼」と「とんかつカレー」にメニューがわかれます。そうです。このお店、とんかつを軸に丼かカレーかをチョイスする仕組みなのです。とんかつ丼では、通常の「とんかつ丼」(790円)に始まり、「ダブルエッグ」といって、カツをとじる卵が倍量になったタイプのもの。「スーパー」(840円)といって、ごはんだけが大盛りになったもの。果ては「ダブルとんかつ」(1090円)といって、カツが倍量になったものなどのラインナップがあります。

この点については、写真を参照してください。豚のマーク、卵のマーク、ごはんのマークがあり、このマークの数で、どの程度のボリュームかを推し量ることができます。

私はこのお店にくると、おつゆがたっぷりしみこんだ卵とご飯を「掻きこみたい」という衝動に駆られるため、ダブルエッグを注文することが多いです。

ここまで説明すると「あれ?とんかつ定食みたいなものはないのか?」と思うかもしれませんが、厳密な意味でのとんかつ定食はありません。もっとも、頼み方によってはとんかつ定食チックなものをオーダーすることができます。もう一度メニューの写真を見てください。値段の左サイドに「丼ぶり型」か「別々型」という記載があると思います。この別々型というのは、カツとじのお皿とご飯のどんぶりが、文字通り「別々に」供されるというもの。したがって、この別々型のメニューを注文すれば「カツとじ定食風」になります。

ただ、注意点がひとつあって、お味噌汁はついてきません。そのため、できるだけ定食っぽく食べたいということであれば、別途豚汁などを注文する必要があります。

ちなみに言うと、お客さんのほぼすべてがとんかつ丼をチョイスしています。カレーが出されるシーンに出くわしたことがありません。

 

安心感のある味。誰もが嫌いではない味。だから何度でも来たくなる

 

メニューを眺めていると、5分程度で「とんかつ丼のダブルエッグ」が到着しました。

丼を覆うあふれんばかりの卵。おつゆがたっぷりと染み込んでいることが如実にわかる、やや茶色がかった表面。そこにチラリと見えるとんかつちゃん。そのてっぺんには行儀よくグリーンピースが何粒か並んでいます。どこからどう見ても、「カツ丼」です。「これ以上正しいカツ丼の姿はないでしょう」、と思わずうなずき、見ほれてしまいます。

人によっては「カツが薄いんと違う?」という意見もあるかもしれません。しかし、卵でとじてすすることを考えると、カツ丼のとんかつは厚みはさほどいりません。むしろ薄くてもしっかりとうまみや甘みのある豚肉を使うことこそが重要になってきます。その点について、「こけし」さんのとんかつは心配要らない出来です。

「いただきます」とつぶやき、割り箸を卵に突き立てると、スーッと入っていきます。計算された半熟度合い。もはや箸で持ち上げて食べることが面倒になったので、思いっきり「シャバシャバ」と掻きこんでいきます。ツユだく最高です。付け合せに供された厚切り沢庵もいい塩梅。途中でカリコリとやっつけます。

すると、「沢庵よそいましょうか?」と先ほどの女性店員さんからうれしいご提案。「モグモグ。お願いします。モグモグ」と答えました。応じている間も食べ続けています。あっという間に完食。最後にお茶をすすり、「いつきても安心感のある味だなあ」とぼんやり考えました。

カツ丼って、突き抜けたうまさよりも、「また食べたいなあ」と思わせるような、ある意味で日常感のある味のほうが高い満足感が得られる料理なのかもしれないと思った次第です。

 

最後まで「気持ちが良い」お店。そんな接客だからこそ、また来たくなる。

 

店内が混雑していることもあって、早々に退散しようと席を立ちました。カウンター越しには、ひたすらリズミカルにカツ丼を作る、もうおじいちゃんと言える年齢の店員さんがいます。その方から「ありがとうございました」と声をかけられました。「ごちそうさま。今日もおいしかったよ」と声をかけると、満足そうに、でも、ちょっとはずかしそうに笑みを浮かべ、米を研ぐために視線を下に落としました。

その表情たるや、こちらの気持ちまで幸せにしてくれる気持ちのよさがありました。

会計はやはりあの女性店員さん。「840円になります」と言われ、ひとまず1000円札を出し、「40円あります」と言って10円玉を小銭入れから取り出そうとガサゴソしていると「ありがとうございます。助かります」とのひと言が添えられた。たかがこれだけのやり取りと思うかもしれないが、このひと言が自然に出てくるかどうかで、お店を後にする時の気分の良さはまったく変わってくるから不思議なものです。

お店を出て、見上げた空は春の到来を少し感じさせる青さだった。胃袋も心も充実させてくれるお店です。

 

こけし

住所:大阪市浪速区日本橋4-5-18

電話:06-6633-4956

営業時間:11時~19時

定休日:水曜日(祝日の場合は翌日休業)